「きもいって、こっちくんな」





今日も、いつもと一緒のこと。

“いじめ”。






いつからか

これが当たり前になってた。



“やめて”

そう言うこともなければ

“助けて”

そんなこと、言えるわけない。




泣くことも

怒ることも、この人の前ではしない。







バシャンッ…



「…ッ冷た…ww」




笑ってたら、なんとかなるかなって

そんなこと考えて何日たったやろ。





あたし、中原あすかは

そんな毎日をすごしてた。







ガラ…



ドアの開く音がして

皆、一斉にそっち向く。






先生「…おぅ、席着けよ」








見て見ぬふりをする先生なんか

1回もあてにしたことない。









がやがやする中あたしも席に着いた。






先生「えー、今日は転校生が来てる。昨日も言ったな?」






転校生。

いじめ、加わるんかな。






先生「入ってー」





その言葉のあと

ビクともしないドア。







先生「…あれ?」





先生が廊下へ出て、また教室に戻ってくる。





先生「…おらん。なんでや」






知るかと心の中で突っ込みながらも

HRの終わりを告げるチャイムが鳴ったから



いつもの場所に行くことにした。







ギィ…





重たいさびたドアを開けると


特等席に、男子の後姿。







キャラメル色の髪が

風に揺れてふわふわしてる。





『…ん?』




その人はドアが開いたことに気づいて

振り向いた。













『なー、そんなとこで立ち尽くさんとこっち来ぃや』



明らかに、は?みたいな顔をしたあたしを見て笑った。






『とりあえず、ほれ』




言われるがまま座ると

キラキラした目でしゃべりだす。








『名前は?』

「…中原あすか」

『ふーん。…俺は、黒原俊』




そう言ったあとごろんと寝転がった黒原俊。





『なんでそんなボロボロなん?』

「…別に」





さっきの水でぬれたままだったな。





「…黒原俊ってどっから来たん」

『俊でえぇよー』




誰が呼ぶか。




「黒原ってどっから来たん?」

『…ちっちゃい田舎』




太陽がまぶしいのか

腕で目を隠した黒原。







『…俺、もともとこっちにおってん』

「…ふーん」

『親がな、行ってこいってばっかり言うから行ってきたんやけど』

「…なんで」

『…なんでやろ?ww』






聞いたらあかん気がして

その話は終わらせた。







『…あすかは?』

「…何?」

『親、そんなん言わへん?』

「…親、おらんし」





物心ついたときからおらんかった。


写真でしか

抱かれていたことだって分からん。








『…そうなん』




“ごめんな”って言われんかったことが

あたしには、嬉しかった。








「なんでさっき、教室入らんかったん?」

『えー?めんどいやん』

「いきなりサボりとか」








がばっと起き上がって

髪の毛を風に揺らす黒原。




『…ま、戻ろっかww』

「…うん」









あぁ、そっか。

黒原、あたしがいじめられてること知らんのか。