あの日の傷が癒えたわけではないけれど、あたしはなんだか清々しい気持ちで、将太君の背中を見送った。
あの日、1500メートル走の途中で倒れてしまったショックもあって、将太君は感情が不安定になっていたのだろう。
自分の感情をコントロールできなくなり、突飛な行動に出てしまうのは、理解できないこともない。
将太君はあたしのことを好きでいてくれたために、あんなことをしてしまったのだし、今こうして謝りにも来てくれたのだから、あたしが彼を許さない理由は、もうない。
あまり会う機会もないかもしれないけれど、かわいい後輩として、これから付き合っていけたらいいと思う。
「『じゃーな、杏奈っ』」
背後から、変な声色を使った男子の声が飛んできた。
「あ…!」
忘れていた。
みんながいたんだった。
「モテるお姉さんは辛いねー」
「うるさーい!」
冷やかす男子達を思いっきり怒鳴りつけると、ギャラリーが一斉に去っていった。



