香織は、過去を思い出しているのか、しばらく口を閉ざした。


そしてコーヒー牛乳を飲み干し、パックをたたむ。


「自然に笑えなくなったのは、悲しかったなぁ」


わざと明るくそう言った香織は、いつものいたずらっぽい表情に戻って、


「正直すぎるのも良くないんだよね。今は告白された時、嘘ついて断ってる。ふふ、あたしって最低」


この場合の嘘は、“優しい嘘”なのかもしれない。


『あなたのこと、好きじゃない』…そう言われるよりも、傷は浅く済むように思う。


人によっては、きっぱり言われた方があきらめがつくのかもしれないけれど。


「好きな人がいる、年上の恋人がいる、今恋人を作る気がない…、思いつく限りの嘘。その度、罪悪感を抱くのは、もうやめた。ほんと、最低な女だね」


力無く笑う香織。


あたしは、独り言のようにつぶやく。


「どっちがいいんだろう。あたしにはわかんないな…」