香織はコーヒー牛乳のストローを少し噛みながら、遠くを見つめた。
「迷ってる気持ちが伝わっちゃったのかな。友達から始めようって言われて、強引に彼女にされちゃったんだ」
今でこそ、言いたいことをはっきりと言う香織だけど、新しい環境に飛び込んだばかりの中学一年生が、先輩から強く迫られたことを想像すると、頷いてしまっても仕方がない状況だったのかもしれない。
「でも、好きになることはできなかった。それを伝えたら、『期待させるようなことをするな』って言われた。ちょっと、ショックだったな…」
香織は視線を落として、小さく笑った。
「あたしは特別なことをしていたわけじゃないのに。自分の振る舞いとか言動とか、自然としていたこと全部に罪があるって言われた気がした」
強引に付き合うことになって、それを受け入れてしまったことが、『期待させるようなこと』なのだろうか。
香織は、いつもにこにこしているけれど、媚を売るタイプではないし、その先輩にいい顔をして機嫌を取るようなこともしていなかったのだと思う。
きっといつも自然体で、でもその姿が『期待させるようなこと』だと思われたとしたら、どうやって振る舞えばよかったのか考えてしまい、自信を失ってしまうだろう。
自由に、思ったままに、振る舞えなくなるだろう。