「チアで杏奈がフィーバーしちゃったね」


他人事のようにからかう香織だけど、相変わらず頻繁に告白されているのをあたしは知っていた。


ずっと、何度も、こんな痛みを経験してきたのだろう。


「そんなに他人の気持ちに寄り添ってると、壊れちゃうよ」


そう言った香織は、すごく大人びた表情をしていた。


何度も辛い思いをしてきたんだということが、よくわかる。


「そう言うあたしも、初めて告白された時は、すごく悩んだんだけどね」


昼休みの中庭で、コンクリートの塀に並んで座る。


手には紙パックのコーヒー牛乳。


あたし達にとっての、カフェみたいな場所。


香織は空に向かって長く息を吐いた。


「入学してすぐの頃、全然知らない先輩に告白されたんだ」


そんな早くから告白されてしまうなんて、やっぱり香織はすごい。


あたしは知らなかったけど、一年生の中でも目立っていたのだろう。


“全然知らない先輩”が告白してくるくらいだから。


「断る理由がね、思いつかなかったの。つきあう理由もないんだけど」


そう言って苦笑いする香織の横顔が、痛々しかった。