手でちぎれそうになかったので、ソーイングセットを持っている友達から小さなハサミを借りて、一番上のボタンの糸を切った。
「はい、どうぞ」
将太君の手のひらに、紺色のボタンを乗せる。
「ありがとう。俺、杏奈のこと忘れない」
ボタンをぎゅっと握って、将太君はあたしをまっすぐに見る。
将太君らしい力強い視線に、笑顔で応える。
「あたしも、将太君のこと忘れな、…ちょっ!将太君!?」
「おい!何やってんだ!」
油断した。
あっという間に将太君の腕に抱かれていた。
「杏奈、卒業しないで!淋しい!」
ぎゅうっと力を強める将太君に、
「てめぇ!離れろ!前言撤回だ、ボタン返せ!」
雄平がつかみかかり、やっとのことであたしは解放される。
将太君は雄平の手をすり抜けて、軽い足取りで駆け出し、
「杏奈!彼氏に飽きたらいつでも俺んとこおいでね!」
無邪気な笑顔でひらひらと手を振る。
「うるせー!飽きさせるかよ!!」
雄平が声を荒げるも、将太君はあっという間に人混みの向こう側へ消えて行った。
「ったく…」
ため息をつく雄平を見上げると、
「えっ」
ものすごく怒った顔で、あたしを見下ろしている。
「な、何?」
将太君にボタンをあげたことなら、雄平が許可したはずなのに。
「俺以外の男に触られてんじゃねぇよ」
「そ、それは、将太君が無理矢理…」
「言い訳は聞かない」
ぷいっと顔をそむける雄平が、こんな時なのにかわいく見えてしまう。



