きらめきシーズン~卒業までの12ヶ月~




手でちぎれそうになかったので、ソーイングセットを持っている友達から小さなハサミを借りて、一番上のボタンの糸を切った。


「はい、どうぞ」


将太君の手のひらに、紺色のボタンを乗せる。


「ありがとう。俺、杏奈のこと忘れない」


ボタンをぎゅっと握って、将太君はあたしをまっすぐに見る。


将太君らしい力強い視線に、笑顔で応える。


「あたしも、将太君のこと忘れな、…ちょっ!将太君!?」


「おい!何やってんだ!」


油断した。


あっという間に将太君の腕に抱かれていた。


「杏奈、卒業しないで!淋しい!」


ぎゅうっと力を強める将太君に、


「てめぇ!離れろ!前言撤回だ、ボタン返せ!」


雄平がつかみかかり、やっとのことであたしは解放される。


将太君は雄平の手をすり抜けて、軽い足取りで駆け出し、


「杏奈!彼氏に飽きたらいつでも俺んとこおいでね!」


無邪気な笑顔でひらひらと手を振る。


「うるせー!飽きさせるかよ!!」


雄平が声を荒げるも、将太君はあっという間に人混みの向こう側へ消えて行った。


「ったく…」


ため息をつく雄平を見上げると、


「えっ」


ものすごく怒った顔で、あたしを見下ろしている。


「な、何?」


将太君にボタンをあげたことなら、雄平が許可したはずなのに。


「俺以外の男に触られてんじゃねぇよ」


「そ、それは、将太君が無理矢理…」


「言い訳は聞かない」


ぷいっと顔をそむける雄平が、こんな時なのにかわいく見えてしまう。