教室でたくさん写真を撮り、帰り支度をして外に出てからも写真を撮ったり、他のクラスの友達や後輩達とおしゃべりをする。
名残惜しくて、しばらく帰れそうにない。
「杏奈!」
ふいに呼ばれて振り返ると、きっちりとブレザーを着てネクタイを締めた将太君がいた。
「卒業おめでとう」
「ありがとう!」
にっこり笑うの将太君に、あたしも笑顔で応える。
「杏奈、ネクタイちょうだいよ」
それは、卒業式の定番行事。
ネクタイや、ブレザーのボタンをあげたり、交換したりする。
将太君には色々と助けられたし、あげてもいいかなと思い、ネクタイをほどいていると、
「ちょっ!待て待て!そこストップ!」
遠くから声が飛んできて、次の瞬間にあたしは雄平に腕を掴まれている。
「これは俺の!」
必死な顔をした雄平の言葉がうれしくて、照れくさくて、下を向く。
「ネクタイくらい、いいじゃないっすか」
将太君が言う。
その口調に、一呼吸遅れて顔を上げる。
将太君が敬語で話すなんて、初めてだ。
雄平も、いつもと違う将太君を感じたようで、
「よし、大人になった君に免じて、ボタンだけは許そう」
と、わざとらしく偉そうな口調で言う。
そんな雄平に、
「まじすか!あざーす!」
体育会系の部活のように頭を深く下げる将太君。
本当に、将太君はずいぶん大人になった。
見た目も、中身も。



