制服のブレザーは、節目の行事以外ではほとんど着ることがなかった。
スカートに比べてずいぶん新しく見えるそれに袖を通すと、背筋が伸びる。
教室の黒板は、下級生が書いてくれた『卒業おめでとう』の文字と、にぎやかなイラストで埋め尽くされている。
校内放送に従い廊下に並ぶと、下級生がやってきて、胸にリボンをつけてくれた。
赤と白の幕が引かれた体育館に足を踏み入れると、合唱部の歌と、下級生や父兄の拍手が迎える。
早くも涙があふれそうになった。
今日ならきっと、どの瞬間にも泣き出すことができるだろう。
みんな、きゅっと口元を引き結んで、まっすぐに前を見つめる。
いつもは上の空の校長先生の言葉に、しっかりと耳を傾けていた。
一人一人、担任が名前を呼ぶ。
大きな声で返事をし、練習した通りに卒業証書を受け取った。
綺麗な筆字で、『伊田杏奈』の名前が記されていた。
下級生による送辞、三年生の元生徒会長による答辞、そして全校生徒による合唱と校歌斉唱。
いつしかすすり泣きの声があちらこちらから聞こえ、気付けばあたしの頬も涙で濡れていた。
本当に、卒業するのだと、実感する。
三年間という時間の長さを思い、そこで得た貴重な体験と、大切な友人を思う。
見守ってくれている両親や先生達を思う。
いくらか成長できた、自分を思う。
あたし達はこの場所で、大人と子供の間の三年間を、生きた。
胸に抱くのは、ただ、感謝の気持ちだ。



