書道教室に戻る雄平と別れ、あたしは荷物を取りに教室に戻る。
三年二組の教室には、まだ電気が点いていて、
「香織!?待っててくれたの?」
教室の窓から外を眺めている香織がいた。
振り向いてあたしを見ると、意地悪そうにニヤッと笑う。
「待ってちゃまずかったー?あ、もしかしてあたし、おジャマ?」
香織はあたしの背後を気にしているけれど、
「雄平なら書道教室で勉強中だよーだ」
負けじと言い返す。
「なーんだ。で、渡せたの?」
「うん!」
あたしは香織に駆け寄る。
「ほんと!?よかったー。がんばったね!」
意地悪な顔が引っ込んで、うれしそうな顔に変わった香織は、ポンポンと肩を叩いてくれた。
憎まれ口をたたいても、本当は優しい香織。
こうして心配して待っていてくれたのが、その証拠だ。
「で、告白は?」
その質問に、思わず手で口を覆う。
「忘れてた…!」
好きだと伝えるつもりではいた。
でも、チョコを渡すことに意識が集中しすぎて、そんな計画はいつの間にかどこかへ行ってしまった。
「は!?」
今度は怒った顔に変わる香織。
「渡せたからいいよ」
あたしは、いたずらが見つかった子供のように口をとがらせて、ささやかな反抗を試みる。
でも香織は攻撃の手を緩めない。
「ばぁか!ぬるいよ!杏奈、ぬるすぎ!」
呆れたように大きくため息をつく。