やばい、と思った。
雄平が困っている。
どうしよう。
『義理だよ』って、笑った方がいい?
「あ…あー!そうか、今日、そっか。忘れてた」
雄平が何かひとりで納得していて、あたしも思わず雄平の顔を見る。
「バレンタイン?」
そこには、照れくさそうに笑う雄平がいた。
「杏奈、俺にくれるの?」
強がる余裕もなかった。
こくん、と頷くと、
「ありがと」
雄平は、あたしの手から包みを受け取る。
そして、くしゃっとあたしの頭をなでてくれた。
「かわいいとこあるじゃんっ」
照れくさくて、されるがままのあたし。
乱れた髪を整える余裕もなく、ぎくしゃくした手つきで、置いてあった缶コーヒーを再び手に取る。
「今食べていい?」
「い、今?」
返事を聞く前から、雄平はリボンをといて包みを開ける。
箱の中には、一口サイズのチョコが六個。
その一つ取って、口に入れる。
「うまい!」
にっこり笑うその顔を見て、思った。
あたし、あげてよかった。
雄平にチョコをあげて、よかった。



