廊下の隅に移動し、並んで壁にもたれる。
「杏奈、会いに来てくれて、ありがとね」
そう言う将太君の横顔は、とても淋しげだ。
将太君と会うのは久しぶり。
きっと、あたしの受験の邪魔にならないように、顔を出すのを控えてくれていたのだと思う。
また、大人っぽくなったみたいだ。
「俺、フラれちゃうんだよね…?」
やっぱり、将太君はわかっていた。
あたしは将太君に向き直り、視線をとらえる。
悲しい色に染まった、大きな目。
「将太君には、すごく感謝してる。でも、気持ちには応えられない。ごめんなさい…」
話しているうちに泣きそうになって、うつむいてしまう。
「あたし、好きな人がいる」
散々振りまわしておいて、利用しておいて、結局は付き合えないなんて、許されることではない。
将太君を怒らせてしまうかもしれない。
きっとひどく傷付ける。
今更、自分の軽はずみな行為を、深く後悔した。
「杏奈、顔上げて」
落ちてきた将太君の声は優しくて、目に涙がにじむ。
そっと顔を上げると、将太君は、あたしに微笑みかけてくれた。
今までで一番、大人っぽい表情だった。
「わざわざ、言いに来てくれてありがとう。俺、杏奈のそういうところ、好きだよ。こんなこと言ったら、また困らせちゃうね」
そう言って、笑う。



