きらめきシーズン~卒業までの12ヶ月~




廊下の隅に移動し、並んで壁にもたれる。


「杏奈、会いに来てくれて、ありがとね」


そう言う将太君の横顔は、とても淋しげだ。


将太君と会うのは久しぶり。


きっと、あたしの受験の邪魔にならないように、顔を出すのを控えてくれていたのだと思う。


また、大人っぽくなったみたいだ。


「俺、フラれちゃうんだよね…?」


やっぱり、将太君はわかっていた。


あたしは将太君に向き直り、視線をとらえる。


悲しい色に染まった、大きな目。


「将太君には、すごく感謝してる。でも、気持ちには応えられない。ごめんなさい…」


話しているうちに泣きそうになって、うつむいてしまう。


「あたし、好きな人がいる」


散々振りまわしておいて、利用しておいて、結局は付き合えないなんて、許されることではない。


将太君を怒らせてしまうかもしれない。


きっとひどく傷付ける。


今更、自分の軽はずみな行為を、深く後悔した。


「杏奈、顔上げて」


落ちてきた将太君の声は優しくて、目に涙がにじむ。


そっと顔を上げると、将太君は、あたしに微笑みかけてくれた。


今までで一番、大人っぽい表情だった。


「わざわざ、言いに来てくれてありがとう。俺、杏奈のそういうところ、好きだよ。こんなこと言ったら、また困らせちゃうね」


そう言って、笑う。