足を向けたのは、一年生の教室が並ぶ廊下。
あたしは、将太君に会いに来ていた。
初めてのことだ。
後輩でも、他の学年の教室を訪れるのは、かなり緊張する。
三年生の教室に来てくれた将太君の勇気の大きさを改めて知り、胸が痛んだ。
今からあたしは、将太君の気持ちに応えられないと伝えに行く。
傷付いたあたしを優しく包んでくれた将太君。
将太君の明るさに、あたしは救われ、癒された。
感謝しても、しきれない。
だから、きちんと話す。
卒業を機にうやむやにしてしまうなんてことは、絶対にできない。
ドキドキする胸を押さえながら、一年二組の教室を覗く。
将太君は、教室の後ろで、男の子達と楽しそうに話していた。
その笑顔を見ると、胸がズキンと痛む。
声をかけられずに立ちつくしていると、男の子の一人があたしに気付く。
「伊田先輩!」
文化祭で会った子だった。
「おお!伊田先輩だ!」
他の子達も、異様な盛り上がりを見せる。
彼らにとってのあたしって、いったいどんな存在なのだろうと思いながら、苦笑いのあたし。
駆け寄って来てくれた将太君の表情は強張っていて、なぜあたしがここにいるのか、もうわかっているように見えた。
あたしから会いに来るなんて初めてだから、察したのかもしれない。