二人で並んで帰り道を歩きながら、香織がぽつりと言う。
「こんなに邪魔したあたしが言うのもなんだけど…」
眉を下げて、少し困った表情の香織の横顔を見る。
「杏奈は、もう迷ったりしなくていいんだからね。まっすぐ、雄平君のこと、好きになっていいんだからね」
そう言ってくれた。
まだ自分だって、雄平のことを好きなのに、背中を押してくれる。
「こんなこと言っても、罪滅ぼしにもならないけど…」
うつむく香織。
香織の想いが心に染み入って、あたしは香織の手を握った。
「香織に応援してもらえるなんて、こんなに心強いことないよ!」
「杏奈…」
香織はあたしを見て、ホッとしたように表情をほころばせた。
そして言う。
表情とは裏腹の、憎らしい言葉。
「ばか。杏奈って、ほんと、ばか」
そんな、天使みたいで、悪魔みたいな香織を、あたしはかわいいと思った。
大好きだと、思った。
香織と雄平の間にあったこと、香織がこれまでにしてきたことを、この先思い出して、心を痛めることもあるだろう。
でも、それでいい。
あたしはその痛みを乗り越えて、強くなりたい。
それが、香織との友情を深めることになると信じている。
雄平への想いを、より強めることになると信じている。
あたしは改めて、雄平に恋をしよう。
もう、気持ちを殺すことなんて、しなくていい。
でもその前に、しなければならないことがある。