香織は、自分の手元を見ながら、あの時のことを思い出しているようだった。
「あたしが思ってた以上に、雄平君、ダメージ受けちゃって。泣きそうな顔するから、かわいかった。思わず、抱きしめちゃったんだ」
ズキッと心がきしむ。
覚悟はしていたけれど、実際に本人から聞くのは、やっぱり違う。
「でもね、雄平君、すぐにあたしの体、離したんだ。『ごめん、ありがとう』って。ショックだった。いくらあたしでも、結構勇気出してやったことだから」
小さく笑った香織は、泣いているようにも見えた。
「でも、肩だけ貸してって言って、あたしの肩に頭を乗せてくれた。今思うと、それは雄平君の優しさだったんだね。手を握っても、振り払われなかった。しばらくそのまま、寄り添ってた」
香織は、自分の手のひらを見つめる。
きっと、雄平のぬくもりを思い出している。
ズキズキと心が鈍く痛む。
あたしと香織は、ただ、同じ人を好きになった二人だった。
自分に置き換えたら、簡単に相手の気持ちがわかってしまう。
だからこれは、香織の痛みだ。
「それだけだから」
あたしを安心させるように笑った香織を、もう一度、きつく抱きしめた。
香織は消え入りそうな声で、
「ごめんね…」
そう、言ってくれた。
本当は、普通に恋をしたかったのだと、わかった。



