ふと、心の一番深い所に残っていた、しこりのようなものに気付く。
これに触れるのには、勇気がいる。
でも、このままにしておいては、あたしはまっすぐに雄平に向かっていくことはできない。
「ね、香織。一つ、聞いておきたいことがある」
きっと、香織はもう、隠さない。
香織のことだから、はっきりと言ってくれる。
「修学旅行で、雄平に告白してくるって言った時のことなんだけど…」
「ああ、やっぱり、見てた?」
香織は、あたしが二人を目撃してしまうことまで、計算していたらしい。
そっと悲しげに微笑んで、
「本当は、杏奈を傷付けるための武器になるはずだったんだけどね」
残酷な言葉も、今は心に刺さらない。
実際に“武器”にしてこなかったところを見ると、何かがあったということがわかる。
香織もあの一件で、何か傷を負ったのかもしれない。
「千葉君と杏奈が付き合うみたいだって言ったんだ、雄平君に。弱らせて、モノにしようとしたの。浅はかだよね、あたしも」
そう言って笑う姿が、なんだか痛々しい。
「杏奈は、何を見た?」
香織が反対に聞いてくる。
「手を繋いでた。それで…キスしそうに見えたから、慌てて逃げてきた」
「なんだ、いいとこ見てるね。それは傷付いたでしょ。あたしの作戦、成功してたんだ」
わざと冗談めかして言う香織。
「でも、もう少し見てれば、傷付かずに済んだんだよ」
それは、どういう意味?



