きまりが悪そうにあたしを見て小さく笑った香織は、重い足かせから解放されたような、穏やかな目をしていた。
嘘をつくことも、隠し事をすることも、苦しい。
自分でまいた種だとしても、その苦しみは確かに存在する。
長い時間、自分の感情を押し殺し、じっとその痛みに耐えていた香織を思うと、悲しかった。
まわりくどいことなんかせずに、あたしの頬を引っぱたく方が簡単だったはずだ。
でもそれをしなかったのは、あたしをとことん傷付けたかったからだろう。
その憎しみの重さは、そのまま香織の傷の深さなのだ。
あたしはそんな香織を、恨むことなんてできない。
香織に寄り添って、傷が癒えるのを待っていたい。
香織にとって、あたしの存在は苦しみの種である以外の何物でもないのだろうけれど、きっと香織は、あたしがそばにいるのを許してくれる。
あたしの手を握り返してくれた香織の細い指が、そう言っている気がした。



