目の前で、冷たい目をして笑う香織。
「あたしの目的は、雄平君を手に入れること、そして捨てること。それから、杏奈を傷付けること」
あたしの肩に手を置き、顔を覗き込む。
「親友だと思ってたのに、実は嫌いだったって言われる気分は、どう?」
あたしは、香織を憎いと思っているのだろうか。
こんなにひどい目にあっているのに、どうして香織を、かわいそうだと思ってしまうのだろう。
「香織…あたしは、好きだよ…」
香織を見上げるけれど、にじんだ涙で揺れて、よく見えない。
「馬鹿じゃないの!」
肩を押されて、少しよろめく。
「ほんと、ムカつく!」
香織は声を荒げて、あたしに背を向けた。
「そういうとこ、大っ嫌い!こんな目にあってるんだから、もう良い子ぶるのやめなよ!」
香織の背中は小さくて、頼りなくて、そしてとても、淋しそうだった。
香織はきっと、たくさん傷付いた。
雄平を好きになって、苦しくて、いつも雄平の近くにいるあたしに、それをぶつけたかった。
意地悪であたしを嫌ったのではない。
あたしを嫌いになることでしか、気持ちを保てなかった。
雄平には軽い気持ちで告白したって言ったけど、きっと、すごくすごく好きだった。
いくら『ムカつく』と言われても、香織の悪意を感じることができない。
いくら『嫌い』と言われても、本当だとは思えない。
そんなあたしは、きっと香織の言う通り、偽善者だ。
でも、それがあたしだ。



