目が合い、とっさに口を開く。
「あ…香織も、残ってたんだね。あたしは進路相談」
声が強張ってしまったけれど、
「あたしは、英語の先生と面接の練習してたの」
香織が小さく微笑んでくれたので、緊張が少し和らぐ。
「英語の面接あるんだ。すごいね」
香織の席に歩み寄り、机の上に置いてあったプリントを覗き込む。
そこには、香織の整った字と英語の先生の赤ペンの文字が、びっしり書き込まれていた。
「ねえ、杏奈」
あたしの言葉に返事をせず、そのプリントも鞄にしまいながら、香織があたしを呼ぶ。
「何?」
少し緊張して、香織の顔を見る。
香織は無表情で、あたしをまっすぐに見て、言った。
「雄平君のこと、好きなんでしょ?」
しんとした教室に、心臓の音が響いている気がするほどに、動悸が速かった。
嘘はつけない。
言い訳もできない。
香織が悲しげな目であたしを見る。
「あたしのこと、裏切るの?」
そんなこと、したくない。
でも、雄平を好きだという気持ちは、どうしても消えてくれない。
あたしは何も言えずに、視線を落とす。