雄平が、顔を歪めて、両手であたしの頬を包む。
「ごめん、杏奈…」
どうして謝るの?
あたしは勝手に泣いているだけ。
泣きたいわけでもないのに、涙が勝手に流れているだけ。
泣きたいのは、雄平のように見えた。
香織は、雄平のこんな顔を見て、放っておけなかったのだろう。
香織は、優しいから。
あたしは雄平の手をすり抜けて横を向き、手の甲で涙をぬぐう。
あたしには、香織のように雄平の傷を癒すことはできない。
今、雄平に悲しい顔をさせているのは、他の何でもない、あたし自身だ。
「ごめん。ちょっと、混乱してる。香織も、何も話してくれなかったから」
香織に隠し事をされていた淋しさも、嘘ではなかった。
少なくとも当時は、親友だと思っていたから。
あたしは、何でも香織に話していたから。
香織と雄平が付き合っていないとわかって、ホッとしたはずなのに、心は少しも晴れない。
やっぱり、真実を知ることだけが、全てではなかった。
「寒いね。行こう」
あたしは歩き出す。
「杏奈!」
雄平が呼ぶ。
立ち止まるあたしに、雄平がもう一度呼びかける。
「杏奈…」
悲痛な叫びにも似たその声に、ゆっくりと、振り返る。
何かの痛みに耐えるように、雄平は顔を歪め、あたしを見つめている。
その視線が鋭すぎて、心がえぐられるようだった。
雄平は、絞り出すように、言った。
「杏奈は、誰が好きなの?」



