将太君は、あたしを抱きしめたまま、甘えた声で問いかける。
「だめ?」
その口調がかわいらしくて、思わずクスクスと笑ってしまう。
そして意地悪に言う。
「だーめっ」
けれど将太君はめげない。
「じゃあデートして!」
「ねぇ、そんなことより、そろそろ放して…」
もぞもぞと身じろぎるすと、将太君は慌ててあたしから飛び退く。
「ご、ごめん。またやっちゃった」
将太君は、申し訳なさそうな表情をして、頭をかく。
悪い子じゃないんだ。
ただ、考えるより先に体が動いてしまうというか、手が早いというか、そんなタイプ。
「体育館、戻ろうか。そろそろ表彰式始まるよ」
あたしがそう言って先に歩き出すと、
「あ!いいこと思いついた!」
背後で声を上げる将太君。
振り返ると、ニコニコしながら駆け寄ってきた。
「文化祭、一緒に回ろう。それくらいならいいでしょ?ちょっとだけでいいから!」
あたしの腕を持って、ぶんぶんと振る。
「うーん…。ま、いいでしょう」
少しもったいぶってから、頷く。
「やった!」
笑顔がはじけた将太君は、次の瞬間には体育館に向かって走り出していた。
「約束だよー!」
遠くから手を振る将太君を見ていると、自然と笑みがこぼれる。
強引だけど、憎めない、そんなかわいい後輩。
あたし、この子のこと、結構好きかもしれない。