自動販売機の前で品定めしていた将太君が、くるりと振り返り、
「杏奈ぁ。ポカリがいい」
甘えた口調で言う。
さっきコートの中で見た、鬼気迫る姿のスポーツマンと同一人物とは、到底思えない。
あたしはポケットの小銭入れから100円玉を取り出し、缶をひとつ買った。
「えー!ペットボトルじゃないの?」
「贅沢言わないの!」
不満げに口をとがらせるけれど、次の瞬間には笑顔になり、
「ま、いいや。ありがとっ」
プルトップをあけて、ゴクゴクと流し込む。
「杏奈も飲む?」
無邪気に缶を突き出すけれど。
間接キスだということに、気付いてないの?
それとも、意識してしまうあたしが、いやらしい?
「全部飲んでいいよ」
「うん!がんばったからめっちゃ喉かわいた!」
まだあまり目立っていない喉仏が、大きく動く。
男の人の喉だ。
缶を握る手は、意外に大きい。
そういえば、春の体育大会の日、この手につかまれたんだった。
キス…されそうになったんだ。
そんなことを思い出したら、緊張してしまう。
将太君は、今でもあたしのことを好きなのだろうか。
そういう目で、見ているのだろうか。



