試合の合間に、一人でトイレに行った。
あたし以外に誰もおらず、体育館からの歓声が聞こえてくる。
手を洗っていると、洗い場の鏡に美保が映り込んだ。
「あ、美保もトイレ?」
ハンカチで手を拭きながら振り返ると、美保は少し表情を強張らせていた。
いつも笑顔の美保だから、何かあるということはすぐにわかった。
「どうしたの?」
美保は、トイレの方に目をやって、全てのトイレが空いていることを確認してから、口を開く。
「あの、違ったらごめん…。ううん、違った方がいいんだけど…」
美保は視線を落として、片方の靴を爪先でつつきながら、言う。
「杏奈って、小野君のこと、好きじゃないよね…?」
ドクン、と心臓が脈打つ。
どうして、美保がそんなことを聞いてくるのだろう。
誰にも言っていない、この想い。
消さなければならない、この想い。
美保が、知るはずがないのに。
「何で?」
平静を装いながら、逆に問う。
美保は顔を上げて、あたしの本当の気持ちを見逃すまいとするかのように、じっと目を見る。



