ここに来る前に別れたはずの千葉が、呆れ顔で腰に手を当てて立っていた。
「なっ…帰ったんじゃなかったの!?」
慌てふためくあたしの横を素通りして、自販機に小銭を入れ始める千葉。
「ジュース買いに来ただけなんですけど」
そう言われてしまい、あたしは言葉を失う。
「相変わらず、モテてんね」
からかうように言いながら、千葉はジュースを二本買った。
ごく自然に一本をあたしに手渡し、近くのベンチを促す。
「相変わらず…って、何よ」
ちょっと嫌味なセリフに、ふくれながらもベンチに座る。
「俺の知り合いでも、何人玉砕したことか」
くくっと笑う千葉。
「断る方だって辛いんだよ」
プルトップを立てた時のプシュッという音が、静かな廊下に響く。
「ふーん。全員断ってるの?」
「うん」
「なんで?」
千葉のその問いに、改めて考える。
そういえば、どうして?
告白された時は、軽くパニックになりながら、『ごめんなさい』と言うだけだった。
最初から、付き合うことなんて選択肢にない。
でも、それはどうしてなんだろう。
よく知らない人だから?
彼氏はいらないから?
ひとり、首をかしげていると、千葉が遠慮がちに言う。
「…好きなやつが、いるとか」
好きな、人?
ふいに、雄平の顔がよぎる。
違う違う。
雄平は、香織の好きな人。
「…いないよ?」
「今、ちょっと間があった」
「ほんとだってば」
「じゃあ、言う」
千葉が、ふーっと息を吐き、あたしを見た。
そして、言う。
「俺も伊田が好きだよ」



