あたしは、混乱していた。
『忘れて』が、どうして『好きじゃない』ということなのか。
恵がどうして告白できないのか。
納得できない。
小宮が『忘れて』と言っても、恵の気持ちに変わりはないはずなのに。
「杏奈には、わかんないよ…」
恵は、あたしを見て、ぽつりと言う。
その目からは怒りが消えて、代わりに、失望したような、呆れたような、悲しげな色をたたえていた。
その瞬間、心臓をぎゅっとつかまれたように、胸が苦しくなった。
あたしはこの時、恵の傷の深さを、初めて理解した。
小宮に『忘れて』と言われたことが、どれだけ辛かったか。
告白できなかったことが、どれだけ悲しかったか。
そして、傷口に塩をすり込むような、あたしの言葉の残酷さを。
恵の気持ちを理解できたわけではないけれど、恵がひどく傷付いて、そしてあたしの言動がそれに拍車をかけたことは、よくわかった。
「杏奈なら、告白できたかもしれないけど、あたしは無理だよ…」
恵は、視線を落として小さく言う。
「ごめん、いっぱい協力してくれたのに。八つ当たりだよね…」
あたしは、何も言えなかった。



