雄平が手際良くノートを集めて、彼女に差し出す。


「はい、これで全部。なんで宮下が課題のノート持ってんの?」


宮下さんっていうのか。


もうクラスメイトの顔と名前覚えている雄平に感心する。


宮下さんは困ったように笑って言う。


「さっき、先生につかまっちゃって」


「ひっでーな。か弱い女の子一人にノートの山持たせるなんて」


雄平の言う“か弱い女の子”という表現があまりにもしっくりとくるので、あたしもうんうんと頷く。


「これ、みんなに返却するんでしょ?貸して。はい、杏奈も。手分けしてやればすぐだろ」


「あ、ありがと…!」


雄平が宮下さんのノートの山を持ち上げ、その一部をあたしにも押しやってきた。


「ちょっと、雄平。あたしの分、明らかに多いんですけど」


三分の一より多いと一目でわかる量のノートを前にふくれると、雄平はおかしそうに笑い、


「まぁ気にすんな」


そう言って、自分はさっさとノートを配り始めている。


その姿を見てクスクスと笑っていた宮下さんは、あたしの視線に気付いて、にこっと笑った。


肩の上で、ふわっとカールした髪が揺れる。


「小野君って優しいねー」


確かに雄平は優しいかもしれない。


けれど、


「あ、もちろん伊田さんも。ありがと!」


こんなに素直でかわいい子にだったら、誰だって優しくするんじゃないのかな。


そんなのことを考えていたら、なんだか胸がざわざわして、


「あたし達も配っちゃおう」


その場から逃げるように、あたしもノートを持って教室を回り始めた。