別にトイレに用があったわけでもなく、わたしは洗面台の前でボーッとしていた。



この前までは近くにいたのに、今はかなり遠い存在。


頑張れって声をかけることすら難しい。


そんなんで、今日ほんとに告白できるのかな……?



また、わたしは不安に包まれていた。



…いや、ダメだ!



わたしはジャージの左側の袖をちょっと上げた。


そこには、水原くんがくれた青いブレスレット。



…大丈夫。


わたしは大丈夫!



手を洗うと、水が冷たくて、頭がシャキッとなる気がした。



わたしは自販機まで行って、500mlのスポーツ飲料を一本買った。


そして、教室まで戻り、自分の筆箱からマジックを取り出す。



ペットボトルに、「がんばれ!」って書いた。



それを持って、またテントのところまで戻る。


さっきと変わらず、水原くんたちがいる。



「水原くん!」


水原くんが振り向いた。

周りの女の子たちも。



「これあげる!」


わたしは笑顔で、ペットボトルを差し出した。



「…え?」



「じゃあね!」



わたしはその場をまた離れた。



なんか、もうなんでもできそうな気分だった。



「紗奈ちゃん!」


千夏ちゃんが追いかけてくる。



「さっきの、ペットボトルにメッセージ書いたんでしょ?」

あ、バレてる。


「水原、気づいて嬉しそうな顔してたよ!」


千夏ちゃんがにっこり笑う。



「ほ、ほんと…?」

「うん!」



…嬉しい。

嬉しい!



「理香ちゃんのバレー見にいこっか!」

「うん!」



二人で、第二体育館の方へ走っていった。