皆食事中だからね、と付け加えてお兄ちゃんは持ち場の調理室に入って行く。お兄ちゃんの仕事は皿洗い。

 お兄ちゃんは「手がガサガサだから、ハンドクリーム塗ろうかな、乾燥肌って、モテないのよ奥さん」なんて最近文句を言っている割には、皿洗いの仕事を楽しんでいる。

「もっとちゃんと拭け!」

 調理室から、お父さんの怒鳴り声が聞こえてきて、お客さんたちが笑った。


 私、若松海。江の島食堂の店員です!


「海!そろそろ時間じゃないのか?俺がレジ代わるよ?」

 お兄ちゃんが、茶色い髪をボサボサにしながら調理室から出てきた。一体、約五分の間に、何があったんだろう?

「あ、本当だ!じゃ、よろしくね!」

 私は、レジの奥にある『スタッフオンリー』のドアを開けた。

 食堂のエプロンを外して、服を着替える。さっきまで着ていた、犬が描かれた白いタンクトップを脱いで、ピンク色のドット柄ワンピースを着た。

「行ってきまぁーす!」