「んで聞くところによると、最後の晩餐はオムライスだそうで……食っていくでしょ?」
「え、いいの?」
「うん。てか母さんもそのつもりだろ」

 やった、と私は小さくガッツポーズをして、再び参考書に向き直った。

 早瀬の家に勉強をしに行くと、そのまま夕飯の席にも呼ばれることが多い。私の両親は共働きで帰りも遅い……というのは、きっと早瀬からお母さんに話してくれたのだろう。

 そういえば、初めて早瀬の家に来たときは食べ物に釣られて来たんだっけ……。


 それほど遠い昔のことではないのに、あの夏が懐かしく感じられる。思わず笑みがこぼれ、「何ニヤついてんだよ」と、またも早瀬に頬をつねられた。

「痛い!さっきから隙あらばつねってきやがって!」
「ただのスキンシップだよ」
「これスキンシップって言わない!」

 私と早瀬の関係も、あの頃と少しも変わらない。相変わらず早瀬はすぐちょっかい出してくるし、私は事あるごとに反抗し―――惨敗するだけだ。

 でも、そんな関係も悪くないと思う。肝心なことは何も言わない。でも、おそらく気持ちは通じ合っている。
 それでいい。私は隣に早瀬が居てくれたら、それだけでいいのだ。