「で、どうすんの明日が来ないとしたら」
「どうって言われても……」

 尋ねてくる彼――早瀬は至って真面目なようなので、私も真面目に考えてみる。
 もし、私たちに明日が来ないとしたら。本当にそうだとしたら、私は……。


「……ノーコメント」
「はあ?」

 何だよノーコメントって。不服そうに口を尖らせる早瀬に軽く頭をはたかれたが、それでも私はだんまりを貫く。確かに今一瞬思い当たったけれど……言えない言えない。絶対、無理。

「は……早瀬はどうするの」

 質問返しで誤魔化すと、早瀬は参考書から顔を上げた。そうだなー、と逡巡するような表情を見せ、そしてぼそりと呟く。

「俺は……このままでいい」

「?」

 何それ、どういう意味?彼の回答に首を傾げた私の顔を、早瀬のダークブラウンの瞳が覗き込んできた。

 ……顔、近いっす。


「加藤に数学教えてる最中に世界が滅びたとしても、それはそれでありなんじゃね?」

 赤くなった私の頬をつねりながら、早瀬は笑った。
 ……このくらいのことでどうしようもなく嬉しくなる私の思考回路って、ほんと単純すぎる。