「今日、世界が滅びるらしいよ」


 年内の冬期課外授業最終日。この日も私は学校帰りに彼の家に寄り、彼の私室のローテーブルの上で数学の参考書にかじりついていた。
 そんな私の傍らで自分の参考書をめくりながら、彼はふとそう言う。

「あ、それニュースで見た。マヤ文明がどうのっていう……」

 世界滅亡説。それは以前から囁かれていたもので、マヤの暦では今日がその「人類最後の日」なんだそうだ。でも、トップニュースではなかった。……日本人はそんなことを真に受ける程暇ではない、ってことかな。


「俺らに明日が来ねえとしたらさー……どうする、加藤」
「はい?」

 私は思わずペンを走らせる手を止めた。……一体どうして、この男は急にこんなことを聞いてくるのだろう。まさか、無神論者ともあろう彼が、滅亡説を信じちゃったりしているのだろうか。

 うわあ意外!心の中で声を上げながら、彼の横顔に目をやる。そして、ひとつの閃きが脳裏を掠めた―――あ、そうか。

「早瀬は珍種だからか」
「何言ってんだよオマエ」

 むぎゅ

「ぼ…ぼうりょく……」
「何?」
「ず、ずいまぜ……」

 思い切り鼻を摘まれ、私は敢なく降伏した。冬になってもこの暴力漢は健在中。世も末だ。