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 卒論提出も間近に迫った師走のある夜。俺はとんでもない経験をしちまった。あんな経験は二度としたくないぜ。だって次は生きて帰れる保障なんて何処にもないからな。……俺の話は乗り物に関する話だが、何だと思う?
 ……そう、電車だ。
 俺の大学は地方の方にあるから、行きも帰りも比較的空いてて、いつも座席に座る事が出来る。それ自体は幸せな事なんだが、あの日、12月ももう間もなく終わろうかという寒い夜の事だ。俺が乗った最終電車は……幽霊電車だったのさ。
 おかしいだろ? そんなもの本当にあるなんて絵本か何かの中だけの話みたいだろ? でもな、本当に俺は体験したよ。今思い出しても寒気がするぜ。
 ……。
 大学でゼミの研究の為に、俺は毎日研究室に篭りっきりだった。寝ても覚めても研究。研究。頭がおかしくありそうなくらい、ビーカーやピペット、顕微鏡と奮闘したよ。そんな日々が一週間程続き、ようやくひと段落を終えた俺は久しぶりに家へと帰ることにした。研究室に寝泊りしていたから、洗濯物とかはコインランドリーを使用していたので、いざ家に荷物を持って帰る時になって、相当量の荷物があることを恨めしく感じた。
好きな酒を我慢して研究に没頭してきたせいか、俺は解放された気分で帰り道を歩きながら缶ビールを飲んでいた。
大学から駅までの道は非常に暗く、夜も遅いとあってか人っ子一人いない。
 俺は終電に間に合うかと腕時計を見たが、酔いの為か頭がボーッとして文字盤がはっきりと見えない。
「なんだよくそ。急がねえと」
 とにかく終電に乗り損ねたら終わりだ。朝までを冷たいホームで過ごす事になる。