……。
『う~ん、あ、またここに来ちゃったのか僕は』
 懐かしい光景だ。暗闇の中にこうこうと灯るロウソクの群れ。すでに大学生になっていた僕には、その光景は怖いというよりも美しく、そして神秘的にさえ思えた。
『あ、僕のロウソクが徹に寄りかかってるよ。どうも徹も苦しんでいたみたいだし、これが原因だろうな』
 僕は慣れた手つきで二人のロウソクを離し、しっかりと固定した。以前に見た時よりも家族のロウソクが明らかに短くなってきているのが少し寂しかった。しかし、それと同時に新しく加わったロウソク(姪っ子)もあったりして、僕は人の生き死にを改めて実感した。
『僕がここに来て、自分のロウソクをいじったりするのは自然の摂理を曲げているのかな?』
 少し複雑な気持ちになりながらも、僕は再び人の気配を感じて振り返った。
『……ワシは……ワシは死にたくない!』
 そこにいたのは裏のお爺さんだった。
 お爺さんは普段見る優しい顔をしていなかった。目をむき出しにして血管を顔中に浮かび上がらせ、目の前の僅かに1センチ程の長さになって消えかかっているロウソクを凝視していた。
 僕は気の毒になり、目を逸らしていたが、次に聞こえて来た言葉は信じがたい驚愕な内容だった。
『……せっかく、せっかく婆さんの寿命を横取りしたというのに。もうワシには寿命が残されていない』
 僕は耳を疑った。あの、あの優しいお爺さんが、お婆さんのロウソク……。
『……これだ、このロウソクにさえ火を移し変えてしまえば……』
 そう言ってお爺さんが握ったロウソクは、まだ火がついて間もない長いロウソク……恐らくはお孫さんのロウソクだ!
『そ、そんな!』
 思わず大声を出してしまった僕の方に般若の形相でお爺さんが振り返った。その表情には、いつも見る優しさは微塵も残っていなかった。
……あの世で醜い顔をするガリガリの老人は、もはや餓鬼か鬼にしか見えなかった。
『貴様の寿命もよこせえええ!』
 狂ったような奇声を発しながら、お爺さんが僕に向かって突進してきた……しかし。
『ぐわああああ!』
 僕の目の前で、おじいさんは激しい炎に包まれて炎上した。