ファンファンファンファン。
 真夜中、美術館では警報システムが作動し、何台ものパトカーと警察官が駆けつけ、辺りは一時騒然となった。
「はい、どいてどいて」
「何か変わった事はありませんでしたか? 物音を聞いたのは?」
 俺は警官に事情聴取をされていた。そして別室では島田さんが、そしてまた別室では美術品を盗みに入った輩が一人、泣きながら喚くように警察と話をしていた。
「ちょ、ちょっと落ち着いて。ゆっくりと意味がわかるように話しなさい」
「だ、だっ、だ、だだから何度も言ってるじゃんかよお! アイツが、ああ、アイツが絵を盗もうとしたら、くく、くち、くちくち口がいきなり閉じて捕まっちまったんだよ!」
 男はしゃくり上げながらも、必死に警官に自分の見た真実を告げようとしたが、その突拍子もない事実に警官はまるで相手にしていないようだった。
「どうも混乱しているようだ。もしかしたらクスリを使っているのかもしれないな。もう一度、その線でも洗いなおしてくれ」
「はい、それじゃあ署までご同行願います」
 窃盗犯は警察官二人に両脇から挟まれる形で連れて行かれた。
 ……その後もしばらくは事情聴取が続いた。
 最後に、俺と島田さんは現場となった中央展示場で警察官に確認を求められた。
「じゃあ、館長さん。盗まれた物は特にないという事でよろしいですね?」
 作品を見つめながら、島田さんはニヤニヤとした表情で答えた。
「ええ、全く問題ありません。どうもすいませんでしたな、こんな夜中に」
「いえ。これも仕事ですから。では我々はこれで失礼します」
 警察官が引き上げた後、展示場に残された俺と島田さんの目の前に、完成した例の作品が佇んでいた。
 それは恐怖に引きつった顔をした男の石膏像と、その方腕を銜え込んだ絵画……作品名『真実の口に挟まれた男』だった。