『真実の口』は本当にその名の通り、怪物が大きな口を開けているように見えるただの絵画だった。壁に取り付けるタイプの美術品で、別に大きさがずば抜けている訳でも、デザインが突飛だと言う訳でもない。
……しかし、作品の目はまるで生きているかのように見えた。一瞬、本当に一瞬だったが、俺と目を合わせたような気がしたのだ。
「ほう。石田君もこの絵の良さがわかるのかね」
「あ……は、はい」
思わず返事をしてしまった。言葉が勝手に洩れたと言った方が正しいかもしれない。
「キミはなかなかいい目をしとる。だがね石田君。この作品はまだ未完成なんだ」
「未完成? これがですか」
俺は微かに興味を惹かれ、島田さんに聞き返したものの、島田さんは『真実の口』の黒く塗りつぶされた口内に手を置き、その後は何も喋らなかった。
「では、これで失礼します」
その時、この絵画を運んできた引越し業者の人たちだろうか、作業着姿をした数名が島田さんに挨拶をして帰って行った。
「あの絵すげーよな、あんなんで1億だってよ」
「え、マジかよ!」
若いバイトだろうか? そんな会話をしながら館内を後にしていた。
……館内に、俺と島田さんの二人が残された。外はいつの間にか夜になっており、館内の室温も急に下がったような感じがした。
「さあ島田さんも今日はお疲れなんじゃないですか? 後は私に任せてお休み下さい」
「……うむ。そうするとしようか。頼んだぞ石田君」
俺は一応ガードマンとしての職務をまっとうすべく、島田さんを送り出して仕事に入る事にした。
「ああ、石田君」
「おわああ!」
一人になり、さっそく警備室で雑誌を読もうとした俺に、帰ったかと思われた島田さんが現れて言った。
「あの絵画にはくれぐれも近づかないようにな。なんせ未完成じゃからな」
そういい残すと、今度こそ島田さんは自宅へと帰っていった。
「ふ~、誰も触らないよあんなモン」
……しかし、事件は起きたのだ。
……しかし、作品の目はまるで生きているかのように見えた。一瞬、本当に一瞬だったが、俺と目を合わせたような気がしたのだ。
「ほう。石田君もこの絵の良さがわかるのかね」
「あ……は、はい」
思わず返事をしてしまった。言葉が勝手に洩れたと言った方が正しいかもしれない。
「キミはなかなかいい目をしとる。だがね石田君。この作品はまだ未完成なんだ」
「未完成? これがですか」
俺は微かに興味を惹かれ、島田さんに聞き返したものの、島田さんは『真実の口』の黒く塗りつぶされた口内に手を置き、その後は何も喋らなかった。
「では、これで失礼します」
その時、この絵画を運んできた引越し業者の人たちだろうか、作業着姿をした数名が島田さんに挨拶をして帰って行った。
「あの絵すげーよな、あんなんで1億だってよ」
「え、マジかよ!」
若いバイトだろうか? そんな会話をしながら館内を後にしていた。
……館内に、俺と島田さんの二人が残された。外はいつの間にか夜になっており、館内の室温も急に下がったような感じがした。
「さあ島田さんも今日はお疲れなんじゃないですか? 後は私に任せてお休み下さい」
「……うむ。そうするとしようか。頼んだぞ石田君」
俺は一応ガードマンとしての職務をまっとうすべく、島田さんを送り出して仕事に入る事にした。
「ああ、石田君」
「おわああ!」
一人になり、さっそく警備室で雑誌を読もうとした俺に、帰ったかと思われた島田さんが現れて言った。
「あの絵画にはくれぐれも近づかないようにな。なんせ未完成じゃからな」
そういい残すと、今度こそ島田さんは自宅へと帰っていった。
「ふ~、誰も触らないよあんなモン」
……しかし、事件は起きたのだ。

