……俺は真剣な表情の島田さんに一瞬だが怯んだ。
 プ~ッ!
「……ううう、はああ!」
 静かな館内に響き渡るやけに甲高い音、そして恍惚の声。匂い立つ硫黄臭とメタンガス。
「ぐはっ!」
 俺は鼻を押さえ、湧き上がる不快感と怒りを堪えるのに精一杯だった。
「ふはは。当日まで内緒じゃよ」
 ぶん殴りそうになる気持ちを抑える俺を他所に、島田さんは高笑いをしながら去って行った。
 後には俺と、汚れた空気だけが残された。
「く、あのオヤジ……いつか殺す!」
 ……翌日。
 この日は夕方から翌朝までのシフトになっていた俺は、途中のコンビにで夜食と暇潰しの本をコンビニで買い込むと、勤務先の美術館へと向かった。
 ん? 何の本を買ったかって? それはヒ・ミ・ツ★
「あ、島田さん。おはようございます」
 俺は制服に着替えると、美術館中央展示場へと足を運んだ。
 ここは館内でも最新の作品や目玉作品が置かれる場所だ。今日はそこに館長と何人かの業者の姿があった。
「おお、石田君か。見てくれ、ついに手に入ったのだよ『真実の口』がね」
 島田さんはいつにも増してニヤニヤと金歯を輝かせ、額の油を飛ばさん勢いで近づいてきた。
「あ~よかったですね。これが……」
 俺はその作品を見た瞬間、時が止まったかのように感じた。
 ……俺を見ている!
 そう思ったのだ。