「さあ、みんなで祠に祈ろう。これが最後だ。井上昂明の霊が紫乃に災いを呼び起こさないように……」
「え? あ、ああ、はい!」
 それまで黙っていた徹さんが急に提案し、私たちも徹さんにならって祠に向かって黙祷を捧げた。
 ……いったいどれだけの時間が過ぎたのだろう? 私が目を開けると、そこには夜とは思えない暖かな光に満ちた光景があった。
「……美也子」
 紫乃さんは泣いていた。
 もう美也子さんの姿はなかったが、先ほどまで祠の周りを取り巻いていた霊的な気配は完全に消えていた。
「……消えた。祠からも紫乃ちゃんからも……邪悪な気配が」
 能勢さんは激しくまばたきを繰り返しながら呟いた。
「私は……私は助かったの?」
 目をパチクリさせる紫乃さんを徹さんはギュッと抱きしめた。
「ああ。お前は助かったんだ。もう大丈夫だ。十年の間、美也子がお前を守ってくれたんだ」
 徹さんは泣き始めた紫乃さんの背中を優しく撫で続けた。
「よかった。本当によかったです。井上昂明の呪いっていうのも徹さんと紫乃さんの愛には通じなかったんですね」
 斎条さんが明るくはしゃぎ、赤羽先生も二人に祝福の言葉を送る。
「よかったよかった。さあ、ここにいつまでいても仕方ないし、中に戻ろうよ」
 能勢さんと大ちゃんさんが続き、徹さんと紫乃さんもその後に続いた。
 私もみんなの後に続こうとしたが、祠の前で佇む淳さんに気づき声をかけた。
「どうかしたんですか淳さん?」
 彼は祠に目を向けたまま、ゆっくりと喋り出した。