学園怪談2 ~10年後の再会~

「あのね、時子さんは次元の狭間に生きる、心の清い妊婦の前にしか現れない幽霊なんだよ」
「知らないな~。それになんで妊婦限定なの?」
「ん~、詳しくは知らないけど、時子さんは生きていた頃、自分の子供を流産してしまって、その苦しみから自殺をしたんだって。だから妊婦を応援するために幽霊になったっていうことみたい」
 全くもって聞いた事がない。何だ? 『トイレの花子さん』みたいなのか?スミレの勝手なでっち上げではないかとも思ったが、とにかく最後まで話を聞く事にした。
「時子さんはその名前の通り、『時』を操る事のできる幽霊なの。人間ってさ、苦しい時間って『早く終わらないかな~』って思うじゃん? でも人間は時間を早送りする事なんて出来ないでしょ? それでね、時子さんが『辛くありませんか?』って聞いてくれたら、返事をするのよ。『辛いです。助けて下さい』ってさ。そうすると、なんと時を早送りしてくれるって訳。苦しい時間をポ~ンと飛び越えられるって凄いよね。おかげで私はツワリの苦しみを早送りしてもらったって訳」
 興奮してまくし立てるように話すスミレを見て私は不思議な感覚に襲われた。
 普通に考えればスミレの言ってることはあり得ない。でも確かに今のスミレを見ていると、とても先週までツワリで地獄の鬼のような声を上げていたとは考えられない。
「時子さんはね、私の『ツワリに苦しむ時間』だけを部分的に早送りしてくれたんだ。だから私ももう大丈夫。ツワリの苦しみなんてもうさよならよ!」
 ……何はともあれ、苦しみから解放される事は羨ましい。しかし、私ならどんなに辛い事があっても時間を早送りしたりはしない。だって、辛い事があるから楽しい事も多いんだ。私は今までにそう考えてきた。
「まあでもアンタのツワリは本当に酷かったし、良かったじゃない」
 私は言葉だけだが、彼女に言葉をかけてやった。
「えへへ、いいでしょ? 時子さんはね、私の子供が産まれるまでの間、見守ってくれるんだってさ」
 ……今まで人の事をさんざん心配させておいて拍子抜けしてしまった。しかし、それでもスミレが無事に出産できるなら友人としては応援してあげたい。
 私はそんな事を思いながら家路を歩いていた。
 しかし、話はそんなに円満には終わらなかった。