……合宿は2泊3日だ。
 初日は予定通りのスケジュールをこなし二日目の午前、体力づくりと称した山歩きを終えて宿に帰った時のことだ……。
「ふい~っ。疲れた疲れた」
「なんでこんな体力づくりなんて必要なんだ?」
「もう私歩けない~」
 部員が次々と宿の前にたどり着いた。
 僕もしんどい山歩きを終えて宿の入り口にたどり着いた時……ソイツはいた。
「ニャオ~」
 三毛猫のコムギは今日も玄関先で日向ぼっこをしていたが、その姿は昨日とは全く違っていた。
 ……毛が逆立っており、耳はピンと2倍以上に伸びている。目つきは鋭く尖り、耳まで裂けた口からはギラリと光る牙が覗いている。だらりと垂れた舌と流れ出るヨダレ……とにかく見た目も雰囲気も明らかに昨日とは別物だ。
「ひ、ヒイッ!」
 僕は思わず情けない悲鳴を上げちゃったよ。だって当然だろう? 目の前に異形な動物を見たら誰だってビックリするよ。
「あ、みてみて、今日もコムギが日向ぼっこしてるよ~」
「あ、本当だ可愛いね」
 他の部員たちが猫に走りよる。
 ……どうやら僕以外の人間には、あの猫の異常な姿は目にみえないようだ。
 なぜ僕にだけ見えるのか? 僕はこの10年の間に様々な霊的な体験を積んだために、自分でも知らないうちに並外れた霊感を身につけていたんだ。
「……」
 そんな僕の存在に気が付いたのか、コムギは警戒の表情のまま家の中へと引っ込んで行った。
「……あいつ、危険だ」
 僕が直感で感じたのは、そのことだけだった。