……。
 僕が高校生になって1年目の夏休みのことだ。
「お~い早く機材を運んじゃえよ。午後から練習に入るぞ」
 長瀞の山奥。キャンプ場から少し離れた避暑地に、その合宿所はあった。
 ……僕は中学校の頃の少し引っ込み思案な性格を改善したいと思い、高校ではあろうことか軽音楽部に所属していた。
 パートはキーボード。ギターやボーカルなどの目立つ存在にはならなかったが、これでも僕としてはかなり頑張ったつもりだ。
 高校で軽音楽をやってる人たちなんて不良とか多そうでしょ? そうでもないかな。確かに派手な格好をしている人とかはいるけど、みんな普通だし、先輩後輩関係なくいい人たちばかりだよ。
 そして、夏の恒例行事となる合宿が、ここ長瀞キャンプというわけだ。
「あ、見てみて、猫ちゃんがいるよ~」
 女子部員の何人かが宿で飼われていた三毛猫を見つけた。
 三毛猫は人に慣れているのか、彼女達が近づいても逃げる事無く日向ぼっこをしていた。
「あはは。かっわいい~。もうお婆ちゃんなのかな~、ずいぶんと立派なオヒゲですね~」
 僕もチラッと猫を見たが、確かにだいぶ高齢のように感じた。少なくとも10年くらいは生きている事は分かった。
 ……猫がこちらを向いたて僕と目があった。
 サアアアアアア!
 僕の背中を電撃のような悪寒が走り抜けた。
 ……な、なんだこの猫。な、なにか変な……恐ろしい何かを感じる。
 一瞬だが、僕はそう思った。それは決して勘違いなどではない。中学の時以来数々の奇妙な体験をしてきた僕だから分かる事だ。間違いなくこの猫は普通の猫ではない。
 しかし、猫はそんな僕に興味を持たなかったのか、女子部員達と戯れていた。
「あ~、コムギ。こんなとこにいたんだ」
 宿の入り口から小学生くらいの男の子が現れた。
 よく日に焼けた真っ黒な肌にランニングの白が眩しい、いわゆる典型的な田舎の子供だ。
「あら、この猫コムギって名前なの? 可愛いわね、キミんちの猫?」
「うん、そう。コムギは凄く長生きな猫なんだよ」
 猫が女子部員と男の子に囲まれているうちに、僕はその場を離れることにした。
 とにかく、あの猫には何かしら不吉なものを感じる。