第57話 『化け猫』 語り手 石田淳

 ついに一巡して淳さんに順番が戻った。
「じゃあ淳さん、2話目をよろしくお願いします」
 私が言葉を喋り終わると、どこからかガタガタという音が聞こえて来た。
「なんだ? 何の音だ?」
 能勢さんは耳をすませて音の出所を突き止めようと試みる。
「あ、あの掃除用具入れからじゃないですか?」
 斎条さんの一声に、全員が教室の隅にある掃除用具入れを見た。
 ガタガタガタ。
「……む、今度ははっきり聞こえたな。間違いなく何かいるぞ」
 大ちゃんさんと徹さんが掃除用具入れにゆっくりと近づく。
 私、紫乃さん、そして斎条さんは後方で固唾を飲んで成り行きを見守った。
 すると、意外な言葉が淳さんから発せられた。
「起きたみたいだね、出ておいで。モミ」
 一同の視線が淳さんに集まったのと同時に、掃除用具入れが勢いよく開き、黒い影が淳さん目がけて飛び出してきた。
「ニャ~ン」
 そこに現れたのは真っ黒で少し痩せ気味な猫だった。
「ま、まさか……ほ、本当にモミなのか?」
 能勢さんの疑問に淳さんは黙って頷いた。
「モミは僕達が在学していた頃から今でもずっとこの新座学園に住み着いていたんだ。だからもう15年くらいは生きているんじゃないかな。人間なら結構な老人だよ」
 そう言われてみると、10年前はもっとガッシリとした体格をしており、毛艶やヒゲなどが締まっていたように感じた。そして、どこか人を寄せ付けないような尖った雰囲気を持っていたが、今は全身から人間の老いにも似た感覚が伝わってくる。
 やはり、歳をとるのは人間でも動物でも同じだということが伺えた。
「僕の話はね、モミのように長生きをした猫……化け猫のお話なんだ」
 淳さんは足にじゃれつくモミを抱き上げると、怪談を始めた。