……。
「人間はね本当に自殺をしようと決めてもなかなか死ねないものだ。だから飛び降りで中途半端な高さから落ちて死ねなかったりするし、リストカットしようとしてもためらい傷ばかりで簡単に致命傷をつくれない」
 私は黙って徹さんの言葉に耳を傾ける。
「でもね、ふと……。本当にふと『死んでもいいかな』って思った時。無心に近いような状態で何も深く考えずにそう思った時。その時、近くに地縛霊がいたりすると……」
 徹さんはそれ以上は何も言わなかった。
「こ、怖い話ですね。び、びっくりしました」
 私はようやくそれだけ言うと、大きく深呼吸をした。
 徹さんも10年の間に変わったものだ。昔はふざけてばかりで怖い話はほとんどしてくれなかったのに……。
 とにかく、今後も彼の経歴に沿った話は楽しみにしておこう。
「では、次の話をお願いします」
 一巡して話はトップバッターへと戻ることになった。10年ぶりの怪談はまだ始まったばかりだ……。
残り44話