……30分後。作業を何とか終え、俺たち3人とチーフは車へと戻った。
「……お~、おつかれさん。初めてにしちゃよく頑張ったな。ほれ給料だ」
 短時間のうちにすっかりやつれた俺たち3人に、当初感じていたよりも遥かに安いと感じる代価が支払われた。本当に30分とは思えない長い時間だった。
まるで永遠に続くのではないかと思われるマグロの塊と嘔吐感で気力も体力も消耗し、胃腸はいまだにヒクヒクと小さな痙攣を繰り返している。この30分の間に、かなり寿命を縮めたような気がする。
 当然俺たち3人はこれ以上続ける事もなく、それっきりで場を立ち去ることにした。
「次の仕事も女がいいよなー。誰か飛び込んでくんねーかなー」
 俺はギョッとした。そう言うチーフの口元はだらしなく開き、よだれがこぼれ落ちていたからだ。
 目も虚ろで何処か宙を見ていたし、何よりも薄気味悪い笑いを浮かべているのが怖かった。
「し、失礼します」
「ぼ、僕も!」
 逃げるかのように車から逃げていく2人のバイト。
 それに続こうとしようとした俺の目に、信じられない光景が飛び込んできた。
「ふ、ふふ。ふへへへへ」
 相変わらず恍惚の表情を浮かべたままのチーフの背中に、無数の人影が浮かんで見えたのだ。
 それらは、おぼろげな姿形をしているものの、下半身がなかったり、片腕がなかったり、首から上がグシャグシャになっている人間の姿に見えた。
 そして、その人間の姿をしたものは、低い唸り声のような悲鳴のような声を上げている。その耳障りなノイズに俺は耳を塞いだが、チーフは何を気にするでもなく、じっと線路の方を眺めている。
……地縛霊。
 そんな言葉が俺の頭をよぎった。
 人が自殺をすると、中にはその土地に根付いてしまう霊がいると聞いたことがある。そして地場縛霊は更なる犠牲者を呼ぶ。
 チーフの首筋に、新たな零体が浮かび上がった。忘れもしないラグビーボールのような形をした頭……。
 そして、チーフは怪しい足取りで車に乗り込むと、無線で連絡を取っていた。
「あーわかりました。直ぐに急行します」
 そして、大勢の地縛霊を連れた車が俺の前を走り去って行った。
 ……どこか遠くから、再びあの凄まじい腐臭と酸っぱい空気が流れ込んでくるような気がした。