……しかし、俺自身もほとんど身動きが取れる状態ではなかった。
目の前に広がる惨状は、想像していた光景を遥かに凌駕するものだったからだ。
……電車の先頭車両にこびり付いている肉片。そして大量の血液と共に頭髪らしきものがごっそりと付着したままになっている。
そして、列車から数十メートルに及ぶ血痕と細切れになった人間の肉片。少し離れた所に指の何本か千切れ飛んだ右か左かももはやわからない腕が落ちている。列車の少し先に落ちているのが下半身の肉塊だと分かったのはピンクのスカートのおかげでしかない。そこから数メートルに及ぶ長い臓器は小腸なのだとしったのは後の話だ。
辺りに漂う異臭の正体は、大便、小便などの排泄物が同時に飛び散ったものだと分かった時は、俺も足元に崩れ落ち、肩で息をしながら痙攣する胃を抑えて涙を流していた。
そして足元に、何か硬いへこんだラグビーボールのような塊を確認した時、俺は胃から逆流してきた胃液を喉が焼ける程に激しく吐き出した。
「グエッ! ゲエッ! ゲハアッ!」
地面に這いつくばって苦しむ俺を、もはや物言わぬ、いびつなラグビーボールのような形をした女性の顔が黙って見ていた……。
バイト代につられてこの場に来たことを後悔した瞬間だった。
しかし、俺が最も恐ろしく感じたのは何とか気を奮い立たせながらマグロ拾いをする俺たちに対して、一人意気揚々と鼻歌を歌いながらマグロ拾いを続けるチーフの姿だった。
「今日は女性で嬉しいな。おっさんとかだと排泄物の匂いまでおっさん臭くてなあ。はははは」
俺たちは誰一人としてチーフの言葉に反応しなかった。ただひたすら機械的に手を動かし作業が早く終わることを願った。
目の前に広がる惨状は、想像していた光景を遥かに凌駕するものだったからだ。
……電車の先頭車両にこびり付いている肉片。そして大量の血液と共に頭髪らしきものがごっそりと付着したままになっている。
そして、列車から数十メートルに及ぶ血痕と細切れになった人間の肉片。少し離れた所に指の何本か千切れ飛んだ右か左かももはやわからない腕が落ちている。列車の少し先に落ちているのが下半身の肉塊だと分かったのはピンクのスカートのおかげでしかない。そこから数メートルに及ぶ長い臓器は小腸なのだとしったのは後の話だ。
辺りに漂う異臭の正体は、大便、小便などの排泄物が同時に飛び散ったものだと分かった時は、俺も足元に崩れ落ち、肩で息をしながら痙攣する胃を抑えて涙を流していた。
そして足元に、何か硬いへこんだラグビーボールのような塊を確認した時、俺は胃から逆流してきた胃液を喉が焼ける程に激しく吐き出した。
「グエッ! ゲエッ! ゲハアッ!」
地面に這いつくばって苦しむ俺を、もはや物言わぬ、いびつなラグビーボールのような形をした女性の顔が黙って見ていた……。
バイト代につられてこの場に来たことを後悔した瞬間だった。
しかし、俺が最も恐ろしく感じたのは何とか気を奮い立たせながらマグロ拾いをする俺たちに対して、一人意気揚々と鼻歌を歌いながらマグロ拾いを続けるチーフの姿だった。
「今日は女性で嬉しいな。おっさんとかだと排泄物の匂いまでおっさん臭くてなあ。はははは」
俺たちは誰一人としてチーフの言葉に反応しなかった。ただひたすら機械的に手を動かし作業が早く終わることを願った。

