……なんだよコイツ! ボーッとしてんじゃねーよカスが!
 俺は心の中とは正反対の顔をしながら、ぶつかった女性を見上げた。
「……つ!」
 目の前に立ち尽くした女性は、大きなマスクで顔を隠していた。そして、何か言葉を発するでもなく、俺が書類を拾い集める様を眺め続ける。
「……本当にどうもすいませんでした。失礼します」
 ……奇妙な感じを覚えた。まるで死体であるかのように無表情。そして、僅かに垣間見えたマスクの上の肌は吹き出物で酷い有様だった。
 マンションを立ち去ると、さっきの女の顔を忘れようと頭を振った。
「なんか気分わりいな。今日はもうやめにするか」
 俺は近くの公園のトイレに入ると、急いで服を着替え、髪型を変えるとサングラスをかけた。
 こんな仕事をしているせいか、尾行をされたり、俺の接客に勘違いして言い寄ってくる女から身を守る手段だ。仕事になれていない頃に手痛い思いをしたことがあるので、最近では警戒を強めている。だからプロの探偵といえども俺を追跡するのは容易ではないはずだ。
 パチンコをして、時間を潰してから夜は女とデートした。一流商社に勤める受付嬢だ。もちろん俺の仕事の事については一切知らない。