少し遠くから悲鳴が聞こえた。かすかな声だが間違いなく男性の悲鳴だ。
「今のは用務員さんの声だ! 私は救出に向かう! そうだ、君も来てくれ」
 そう言って島尾さんは私を指さした。
「は、はい!」
 私は突然の指名に声が裏返った。
「君たちはそれぞれの役割を全うしてくれ、時間がない、急ごう……それと、絶対に死ぬなよ。何があっても全員無事に朝を迎えるんだ」
 その言葉に全員が頷き、各自が一斉に教室を出た。

 ……図書室。
「ここだ、ここに間違いない」
 淳が斎条を連れて訪れたのは図書室の奥、司書室室……の更に奥。重要文献書庫と呼ばれる場所だ。仰々しく呼ばれてはいるが、小さな本棚一つしか置かれていない倉庫スペースで、厳重に南京錠がいくつもついていた。
 淳は司書室のカギボックスからいくつもカギを持ってきていた。斎条にカギを持たせ、一つ一つを迅速に、丁寧に調べて行く。
「……よし、合った」
 そして、そこで見つけた……『赤い本』。
「ほ、本当にありました! 凄いですね淳さん」
 斎条が喜びの声を上げる。
 中身をパラパラとめくって確認した淳さんは満足そうに笑った。
「うん、どうやら間違いないね。これが井上孔明が儀式に使ったという『死者の書』に間違いない。これで僕たちの任務は完了だ」
 その時だった。
 バン! 
 図書室の方から音がした。
「きゃあ! いったい何でしょうか?」
 斎条の問いかけに答える事は淳に出来なかった。
 二人が図書室に来ると再び音がした。
 バン!
 その音に振り向いた二人が見たのは窓だった。
 ……そこに見えたのは夜の闇……だけではなかった。赤い掌の形をしたマークが窓に2つ判を押されたようにして出来上がっていた。
 バン! バン! バン!
 二人の目の前で、音と共に赤い手の模様が窓に新たに出来上がっていく。
「きゃああ! ふ、増えていく!」
 ババババババ!
 そして、窓一面に無数の手形が着けられていく。
「急いで出よう」
 淳は斎条の手を引き、更に増え続ける手形を見ないようにして図書室を出た。