……ありきたりの褒めゼリフでも、女性は本当に褒められることに弱い。特に真剣に年齢を感じ始めている３０前後の女性なんかは『若い』とか『綺麗』という言葉に敏感だ。うまく言葉を使いこなせば、俺なら１０人に３人は丸め込む力はある。
「そうね……でも、家のローンもあるし、主人とも相談してから出ないと……」
「いやいや奥様。旦那様もきっと綺麗な奥様のためなら賛成してくださいますよ。それに私も男ですから正直に申し上げますけれど、自分の伴侶がますます女性として磨きをかけたいというのをどうして止めましょうか？　失礼かもしれませんが逆に断言致しますよ。こんなに綺麗な奥様の更なる努力を止めるのは罪だと。私がもしも奥様の……その……旦那様だったら『今まで以上に綺麗なあなたを見ていたい』ですね」
『今まで以上に綺麗なあなたを見ていたい』……だって？　普通ならヘソで茶を沸かすようなセリフだが、もちろん俺は本気でそう思ってなんかいない。嘘だよ！　俺の話術にはまった女性なら十分に効果があるセリフだから言ってるだけだ。俺にはそんな女性たちをひきつける魅力がある。実際は安価な美容クリームと美顔機。こんなものに３０万も払ってくれる。そしてその半分は歩合として俺の給料になる。まったく、こんな美味しい仕事ないぜ。
「……そうね。そうよね。私もまだ若い子には負けてられないし。旦那も賛成してくれるわよね」
「ええ！　絶対ですよ」
　俺は絶対に話を持ち越さない。その日、その時間で決められなければ次はない。嘘をつき続ける事にも罪の意識はない。だってそうだろ？　騙す奴より、騙される奴の方が悪い。世の中はそういうふうに出来てるんだから。