しかし、どれだけスピードを上げても、後ろのワゴンはぴったりとついてくる。ぶつかってはこないものの、こちらをピッタリとマークして少しも離れる様子はない。
「もうすぐ山道を抜ける。次のT字路を左折して街へ出たら警察へ直行してやる」
 ようやく道が広がってきて、青看板が山道の終わりを告げ始めていた。
「ダメ! この先の町には彼の友人が先回りしているわ! 次のT字路は右に行って! 山の反対側を通って別の町に行ってお願い!」
「なにぃ! マジかよ。仕方ない、大介、次は右折だ」
 後ろのワゴンは相変わらずパッシングを繰り返している。
「……よし」
 俺はウインカーを右に出し、スピードを落としてT字路に近づく。
 キキーッ!
 車は交差点を猛スピードで左折した!
「おい! なんで左なんだよ! うわああああ!」
 ギュギュギュギュギュ! キィィィィッ!
 そして車は焦げ臭いタイヤの摩擦臭をあげながら道路脇で反対向きになりながらも静止した。
「ぐえっ! ゲホゲホ、な、何やってんだよ大介……うわああ!」
 オカケンの抗議の声は直ぐに悲鳴に変わった。
「シャアアアア!」
 後部座席に乗っていた綺麗な女性が、いつのまにか真っ白なバサバサ髪の老婆に変化していた。そして、耳までさけようという口と鋭い目つきで、オカケンへと手を伸ばしていたのだ。
「うわあああ! ば! 化け物だあああ!」
 オカケンの首に長い爪をした腕が絡もうとした時だった。
 バタン! 
 後部座席のドアが開いて、クマのようなガッチリした体格の大男がドアを開けて化け物に向かって叫んだ。
「そこまでだ山姥! さっさと山に帰れ!」
 山姥と呼ばれた化け物は一瞬口惜しそうに俺を見ると、奇声を上げながら信じられないスピードで山の奥へと駆けて行った。
 呆然とする俺たちに、山男風の男性は似合わない優しい笑みで言葉を掛けてきた。
「無事でよかった。あいつは古くからこの峠に住み着く山姥でな、地蔵様にお参りしないよそ者を狙って現れる事があるんだ。たまたま車で通りかかって、君たちをみかけたもんだから必死で追いかけてきたんだよ」
 オカケンも俺も、しばらくは茫然とsたままだったが、それでも信じられないような悪夢から平和を取り戻して、徐々に安堵が広がってくるのを感じていた。