「そりゃまあ、そうだけど……」
「俺は怖いんだ。死んだら地獄に落ちるのか、それとも新しい自分に生まれ変わるのか……別に辛い目に遭う事が心配なんじゃない、何が起こるか分からないという事が耐えられないんだ」
 確かに、死んだらどうなるのか? 誰でも一度は考えるようなことだ。でも、もちろん結論何かでない。誰もが『その時になってみないと分からない』という結論を出して日々の生活を精いっぱいに送るしかないのだ。
 ……でも、孔明は少し呼吸を整えるとニヤリとした笑みで父に言った。
「だからさ、俺は自分の肉体を……蘇らせたいと思ってる」
 それはあまりに唐突な発言だった。でも、父は今度は笑わずに聞いていた。彼の言葉に何か芯の強さを感じたからだ。
「この間、図書室で怪しい本を見つけたんだ。その名も『死者の書』。これにさ、自分の肉体を復活させて、死んだ後の魂を蘇生させる方法が書かれていたんだよ」
 ……死者の書。
 ゾンビ映画にでも出て来る名前の本だ。黒魔術がどうのという話が書かれていたりして危険な物という印象しかない。
「で、まさか。ゾンビとして生き返るっていうつもりじゃないだろうな?」
 ここでようやく父は孔明に切り返すことができた。半分は冗談で返してくれることを望みつつ……。
「まさか……でもある意味じゃあ正解かもね。死者の書に書かれていた内容だと、特定の儀式をしておくだけで死んで直ぐに魂は無の状態で保存できるらしい。この無の状態は時間の流れが存在しないから戻る肉体の準備が出来次第、自分の全盛期の肉体に戻れるらしいんだ」
 父は捲し立てるように話す孔明に、驚きと畏怖を同時に覚えたそうだ。でも頑なに信じて疑わない孔明は父のアドバイスに耳を貸すことはなかった……。
 ……それから時は流れ、二人は卒業を迎えた。父は県立の高校に進学し勉強を続ける事になった。孔明は絵の才能を評価されて美術の専門学校へ進学を決めた。
 でも、その孔明も『絵斬り般若』の代表作を最後に命を絶った……。