第94話 『井上孔明の過去』 語り手 卒業生(島尾さん)
最後の一周が始まって淳さんが話し終わった時、突然廊下から靴音が聞こえてきた。
コツン、コツン、コツン。
「ちょっと、今度はいったい何が起こるの!」
紫乃さんが徹さんの腕を掴んで悲鳴をあげる。
私もたて続けに起こる怪奇現象に冷や汗が止まらない。心臓がドクドクいって口の中がカラカラに乾いている。
「だ、誰かが廊下を歩いているんだ」
能勢さんの言葉にみんなが聞き耳を立てる。
コツン、コツン、コツン。
……確かに誰かが歩いてくる音だ。その足音は次第にはっきりと、でもゆっくりと、ペースは変えずに確実にこの教室へと近づいて来ている。
「く、来るぞ!」
大ちゃんさんがドアの近くで教室にあったモップを手に身構える。
コツン、コツン、コツ。
足音がドアの前で止まった。
「失礼するぞ」
意外な事に、ドアの前で立ち止まった人物は声を掛けてからドアを引き開けた。
「あ、あなたは?」
現れたのは初老の男性だった。
そして、その男性を前にして、モップを持ったまま大ちゃんさんが身動きを取れずにいる。あまりに意外で場にそぐわない人物の登場に、全員が完全に呆気に取られた。
「私の名は島尾。……井上孔明の事について知っている」
その言葉に、全員が一瞬だが息を飲む。
中年というよりは壮年といった感じのオジサンは、手近なイスを引き寄せると、腰を降ろして長い溜息をついた。
「私の父がこの学園の卒業生でね。井上孔明とクラスメイトだったらしい。学園の用務員さんから君たちの話を聞いて、今回もしかしたら何か起こるのではないかと思い、あらかじめこの学園に来ていたんだ」
斎条さんはペットボトルのお茶をカバンから取り出すと、遠慮がちに島尾さんに手渡した。
「そうだったんですか、用務員さん何も教えてくれなかったな」
少し残念そうに能勢さんが話す。この中では誰よりも用務員さんと仲良くしていた彼だから、内緒にされていた事が寂しかったのかもしれない。
最後の一周が始まって淳さんが話し終わった時、突然廊下から靴音が聞こえてきた。
コツン、コツン、コツン。
「ちょっと、今度はいったい何が起こるの!」
紫乃さんが徹さんの腕を掴んで悲鳴をあげる。
私もたて続けに起こる怪奇現象に冷や汗が止まらない。心臓がドクドクいって口の中がカラカラに乾いている。
「だ、誰かが廊下を歩いているんだ」
能勢さんの言葉にみんなが聞き耳を立てる。
コツン、コツン、コツン。
……確かに誰かが歩いてくる音だ。その足音は次第にはっきりと、でもゆっくりと、ペースは変えずに確実にこの教室へと近づいて来ている。
「く、来るぞ!」
大ちゃんさんがドアの近くで教室にあったモップを手に身構える。
コツン、コツン、コツ。
足音がドアの前で止まった。
「失礼するぞ」
意外な事に、ドアの前で立ち止まった人物は声を掛けてからドアを引き開けた。
「あ、あなたは?」
現れたのは初老の男性だった。
そして、その男性を前にして、モップを持ったまま大ちゃんさんが身動きを取れずにいる。あまりに意外で場にそぐわない人物の登場に、全員が完全に呆気に取られた。
「私の名は島尾。……井上孔明の事について知っている」
その言葉に、全員が一瞬だが息を飲む。
中年というよりは壮年といった感じのオジサンは、手近なイスを引き寄せると、腰を降ろして長い溜息をついた。
「私の父がこの学園の卒業生でね。井上孔明とクラスメイトだったらしい。学園の用務員さんから君たちの話を聞いて、今回もしかしたら何か起こるのではないかと思い、あらかじめこの学園に来ていたんだ」
斎条さんはペットボトルのお茶をカバンから取り出すと、遠慮がちに島尾さんに手渡した。
「そうだったんですか、用務員さん何も教えてくれなかったな」
少し残念そうに能勢さんが話す。この中では誰よりも用務員さんと仲良くしていた彼だから、内緒にされていた事が寂しかったのかもしれない。

