学園怪談２ ～１０年後の再会～

「うるさい、だまれ！」
　パチィィン！
　ついに喜多川は恐怖と焦りから女生徒の頬を張った。
「いや、いやあ、いやああああ！」
　さらに女性との悲鳴が大きくなり、喜多川が再び手を振り上げた時だった。
　バリィィィィン！
　頭上で蛍光灯が破裂した。頭上からバラバラと破片が降り注ぐ。
　バリン！　バリン！　バリィィン！
　１本が破裂したあとは、それを追うかのように他の蛍光灯も破裂した。
「うわああああ！」
「きゃああああ！」
　パニックに陥った教室内に男女の悲鳴が響き渡る。
「危ねえ！　おい、木崎！　木崎！　この女抑えてろ木……崎？」
　女生徒を抱えたまま、薄暗くなった室内で仁王立ちする木崎の肩を掴んで振り返らせると……そこに木崎の顔はなかった。
「せ……ぷふぁあ」
　そこにあったのは、蛍光灯の破片で覆われた血まみれの顔。木崎の面影はもはや髪型くらいでしか判別できない。顔じゅうの皮膚、穴という穴に蛍光灯の破片が突き刺さり、切り刻んでいた。
　ドタアアアア！
　その木崎が後ろ向きに倒れた。
「きゃあああああ！」
　喜多川の腕に噛みつき、一瞬の隙をついて女生徒が駆けだした先は……。
　バッシャアアアアアン！
　ベランダへと続く窓ガラスだった。
「お、おい！」
　喜多川の声に女生徒からの返事はなかった。
　窓ガラスに頭から突っ込んだ女性との首は……ありえない方向を向いていた。そして、溢れ出る鮮血。女生徒は突っ込んだ衝撃で首の骨を折り、割れたガラスで激しく皮膚を切り、文字通り首の皮一枚で胴体と頭が繋がっている状態だった。到底生きているはずはなかった。
「う、うわああああああ！」
「きゃあ、きゃあ、いやあああああ！」
　残った生徒たちが上げる悲鳴を喜多川はイライラした気持で聞いていた。
『うるさい！　うるさい、うるさい、うるさいうるさいうるさい！』
　喜多川はどこか遠くに残った生徒たちの悲鳴を聞いていた。まるで水の中で外の音を聞いているかのように、音は次第にくぐもったものに変わっていった。
『目障りだああああ！』
　そして、喜多川は手近な床に落ちていた大きなガラスの破片を取り上げた。自分の掌が握りしめるガラスで肉が裂けていく痛みに気づくことはなかった。